Delight Slight Solty KISS 1


 それにしても、一体どうしてこんなことになっちゃったんだろうなぁ…。

 お座敷席を一歩出て大きなため息をついたと同時に、大音量のだみ声が追いかけてきた。
「おい島村っ! 熱燗三本頼んだらさっさと戻って来い! そのままトンズラなんざこきゃぁがったりしたらただじゃおかねぇぞコラ!!」
「は…はいっ!」
 一瞬びくりと身を縮め、声を張り上げたジョーに店中の注目が集まる。小さな飲み屋のこととて「お座敷席」といっても奥の一段高くなった一角に申し訳程度の上がり口をつけて障子で区切っただけのこと、早い話が紙一枚隔てたそのすぐ向こうは大勢の酔客で満員御礼状態のカウンター及びテーブル席の真っ只中も同然なのだ。となるとこの状況はちょっと…いやかなりこっ恥ずかしく、すでに大分いい色に染まっていた頬をいっそう赤くしたジョーは、とりあえず注文だけを済ませてそそくさとお座敷席へ逃げ帰ったのだが。
(だけどマジ、一体どうしてこうなっちゃったんだよぉぉぉぉぉっ!)
 真っ白な障子に手をかける寸前、再度の深い深いため息がその唇から漏れた。

 今日から明後日にかけて、フランソワーズがセリーヌ・ノエリー、そして和泉ジュンと三人で箱根旅行に行くことは一か月以上も前から決まっていた。セリーヌとジュンの間には元々何の面識もなかったのだが、ふとした折に共通の友人であるフランソワーズに引き合わされるやいなやたちまち意気投合してしまい、今では三人で毎日のようにメールやら電話やらをやり取りする仲になっている。
 しかしフランソワーズは言うに及ばず、ファッション界あるいは日本ジュニアテニス界のトップとして君臨する彼女たちの忙しさもまた並大抵のものじゃなし、どんなに仲良しとはいえ三人揃ってどこかに遊びに行くなど到底無理な話だった。
 だから今回セリーヌとジュンの休暇が重なったのはまさに奇跡のような偶然、となればフランソワーズも誘って三人でどこかに行こうという話になるのもこれまた必然。そして、誘われたフランソワーズはもちろんのこと、日頃何かと手のかかる男連中と赤ん坊の世話に明け暮れ、同年代の少女たちとおしゃべりする暇さえほとんどない彼女を心配していたギルモア邸の面々も大いに喜んで是非行ってくるよう勧めたというのも、当然と言えばあまりに当然過ぎる展開であった。
 ところがいざ話が決まってみれば、まるでこの日程を狙い撃ちしたかのごとく、他の「家族」たちにも次々と予定が入ってしまって。
 まず張々湖飯店に今夜付で貸切宴会の予約が入り、張々湖とグレートが店に泊り込まなくてはならなくなった。そればかりかギルモア博士とイワンまで、コズミ博士から「緊急の相談」とやらの連絡を受け、今日明日とこれまた泊りがけでコズミ邸に赴くこととなり―結果、今夜だけはジョーが一人で留守番、という羽目になってしまったのである。
 もっともジョーとてすでに十八の立派な青少年、今更一人で留守番しようとも心配することなどこれっぽっちもあるわけがない。…強いて言えば食事の件だけが多少不安なものの、ギルモア邸にだってインスタントやレトルト食品の買い置きはちゃんとあるし、ちょっと車を出せばコンビニでもファーストフードショップでもよりどりみどりなのだから、別に餓死することもあるまい―ということで外出組はとりあえず納得、そして一方のジョーはジョーで、フランソワーズや張々湖の手料理が大好物なのはもちろんながらその反面、ジャンクフードにもこれまた目がない今時の青少年だったりするので、久々にカップラーメンやらインスタント焼きそばやらを誰憚ることなく好き放題食べられるのを心密かに楽しみにしていたのだった。
 ところが当日すなわち今日、皆を見送ってからわずか数時間後に思いがけない電話が一本。
(…あ、もしもし島村クン? 石原です。実は今夜松っちゃんと飲みに行くんだけどね、せっかくだからたまにはそちらの皆さんともご一緒したいなぁ、って…え? 何、今夜は島村クン一人? だったら是非出ておいでよ! …うん、うん、場所はウチの近くの飲み屋なんだけど、ご飯物メニューもたくさんあるから食事の方も大丈夫だしさ。「たぬきばやし」って店でね、最寄り駅は…)
 この甘い誘惑の前にはさすがのカップラーメン及びインスタント焼きそばの魅力も一気に消滅、二つ返事で承知したジョーが約束の時刻が来るのも待ち遠しく、いそいそと教えられた店へと向かったのは言うまでもない。
 「たぬきばやし」はいかにも下町の飲み屋そのものといった雰囲気の、こじんまりとした店だった。それでもカウンターやテーブル席の奥には一応、形ばかりの「お座敷席」が二つ設けてある。そして約束の時刻ぴったりに集合したジョー、石原医師、松井警視の三人は、勇躍そのうちの一つに陣取ったのだった。
 さすが石原医師と松井警視が贔屓にしている店だけあって酒も料理も最高の味、しかも久しぶりに顔を合わせたとなれば会話だって大いに弾むというものである。かくて三人のささやかな宴会はどんどん盛り上がっていくばかり…のはずだったのだが。
「ところでよぉ、島村のボーヤ。お前、あの金髪の可愛い子ちゃん…フランソワーズとはいってぇどーなってんだ? あー?」
 すでに大分酒も入って程よく出来上がりかけた松井警視がふとそんな台詞を口にした瞬間、事態はとんでもない方向へと転がり出したのだった…。

「…だからな、おめーらがお互い憎からず思い合ってるなんてこたぁ俺らみてぇな部外者にだって一目瞭然だってーのっ! なのにいつまでたってもぐずぐずだらだら足踏みばっかしやがって…。幼稚園児のおままごとじゃあるめーし、いーかげんはっきりしろってんだてめぇコラ!!」
「…ま、まぁまぁ松っちゃん、落ち着いて。ほら、ここは別に取調室じゃないんだからさ」
 目の前のジョーを睨み据え、座卓を思い切りひっぱたいた松井警視。そんな幼なじみを懸命になだめていた石原医師が、自分たちの目の前に畏まって小さくなっている栗色の髪の少年に、ふと優しい視線を向ける。
「ごめんね、島村クン…余計なお節介だってことは重々承知してるんだけどさ、僕らの方も何ていうか、時々じれったくなっちゃうんだよね。だって君たちは本当に仲良しで、相性もぴったりって感じなんだもの。…だけどもしそれが僕らの誤解だったら…君にとってのフランソワーズさんがただの大切な友達、仲間に過ぎないのなら、特に何を言う必要もないんだけど」
「そ、そんな、とんでもないっ! フランソワーズがただの友達とか仲間に過ぎないなんて、僕は決してっ!」
 穏やかな、しかしある意味ずばり核心を突いた問いについつい叫んでしまったジョーが慌てて口を押さえる。松井警視と石原医師が、にんまりと顔を見合わせた。
「へっへっへっ、ついに白状(ゲロ)しやがったな、少年A。だがよ、だったら何でいつまでも彼女を放ったらかしにしとくんだ? …って、別にキスしろとか押し倒せとか言ってるわけじゃねぇぞ。現職警察官の俺がまさか、未成年に不純異性交遊勧めるなんて真似ァできねぇからな。ただ、それならそれで『好きだ』の一言くれぇ言ってやってもバチは当たらんだろうによ。ん? 何か弁明があるなら聞いてやっから、言ってみろホレ!」
 見事被疑者を自白に追い込んで(?)勢いづいた松井警視にひきかえ、ジョーの方はよりいっそう縮こまってうつむくばかり。とはいえやがて、消え入りそうな小さな声で。
「あ…あの…でも…っ! 告白したいのは山々なんですけれども、僕とフランソワーズとじゃ…あんまり…あんまり釣り合いが取れなさ過ぎて…っ!」
「そんな…何言ってるの。君と彼女が本当にお似合いだってことは僕らだって…いや、仲間の皆さんだってみんな認めている事実じゃないか!」
「そんなの、ただ見かけだけの話でしょう!? 僕が言ってるのはそんなことなんかじゃない…そんなんじゃなくて、もっと根本の…生活力というか、人間的完成度の差というか…」
「おいおい、何だかえらく大袈裟な話になってきたなァ。…でもま、言いたいことがあるなら何でも言っちまえや。楽になるぜ」
「だから松っちゃん! ここは取調室なんかじゃないってばっ!」
 意外なジョーの台詞にすっかりたじろいでしまった石原医師、逆に妙に冷静に腰を据えてしまった松井警視。そんな二人の「人生の先輩」を前に、ジョーがぽつり、ぽつりと語ったところによると―。
「フランソワーズは…本当に大した女性だと思うんです。お二人は僕らの『事情』も全てご承知だから言うんですけど…ミッションでの彼女は僕たち男連中にだって一歩も引けを取らない勇敢な戦士だし、そのくせ普段の平和な日々の中ではたった一人で家事一切を引き受け、完璧にやりこなしてるし…。それに引き換え僕ときたら、サイボーグとしての基本性能、戦闘力こそ仲間内で一番かもしれないけどそれ以外のことになるとまるっきり…孤児院で小さな子の世話をしてたおかげでイワンの面倒くらいなら見られるものの、料理や洗濯、掃除なんてろくろくやったこともなくていまだにご飯一つ炊けないしトイレ用洗剤とお風呂用洗剤の区別もつかないしボタンつけや繕い物をすれば指先を傷だらけにするしそもそもファッションやおしゃれ自体がまるっきりわからないし朝は弱いし…」
「おいちょっとストップ! わかった! お前の言いたいことはよくわかったからっ!」
 放っといたらどこまで続くかわからないジョーの告白(それとも愚痴か?)に音を上げて強引に話を断ち切った松井警視、そして石原医師が今度は泣き出しそうな顔を見合わせる。さすがの彼らも、ジョーの生活無能力者っぷりがここまでとは夢にも思わなかったのだろう。
 それもそのはず、父親が大工の棟梁とて何かと人の出入りも多かった松井警視の家では家事の現場はまさに戦場、よって彼自身も妹共々、まだ小学生になるならずの頃から炊事・洗濯・掃除の手伝いを嫌というほどやらされてきたのだ。一方石原医師は石原医師で両親祖父母が揃って医者あるいは看護師だったから、不運にも急患やら重病人やらがかち合ったが最後、保護者全員そっちにつきっきりで子供や孫なんざ完全放ったらかしが当たり前、その間は自分たち兄弟だけで家事一切をこなさねば食べるものはもちろん小学校や幼稚園に着ていく服もない、ついでに家はゴミだらけ…という環境で育ってきたのである。  だが、まだ乳飲み子のうちから孤児院暮らしだったジョーにはそんな経験は一切ない。親のいない淋しさに泣くことはあっても、食事の支度やら衣類の洗濯やら孤児院内の清掃やらは全て担当職員及び栄養士、はたまたボランティアの面々が責任を持って引き受けてくれていた。長じて世を拗ね、事件を起こして鑑別所に送られた際にはまぁ…衣類の洗濯だの収容房の掃除くらいはやったかもしれないけれども食事は多分「給食」というヤツで。第一それらの作業に使う道具―針、糸、あるいは箒ちりとり雑巾洗剤その他モロモロ全てを含む―の調達はやはり職員が担当していただろうから、結局与えられた道具で言われるままに手を動かしていただけに過ぎないし、何より収容後一か月足らずで脱走したとなればそんな技術などまともに身につくはずもない。
 それら全てがジョーの「不幸な生い立ち」によるものだとは充分承知しているものの、何か―この件に関してだけは自分たちの方がよっぽど悲惨な環境の中で育ってきたように思えるのは果たして気のせいだろうかどうだろか。
「ナァ、島村のボーヤ…お前って…小さな頃から散々苦労してきたくせに、ミョーなところでとんでもねぇ『お坊ちゃま』だったりするんだなぁ…」
 しばしの沈黙の後、松井警視のため息交じりのつぶやきが、狭いお座敷席の中にひっそりと響いた。

「あの…でもさ、男と女を比べればやっぱり男の方がガキだし…あれこれ女性に手を焼かせるのもある程度は仕方がないと思うよ?」
 松井警視の言葉にますます小さくなってしまったジョーの背を、石原医師がぽん、と叩く。
「それとも島村クンは案外亭主関白タイプなのかな? 何でも自分が主導権を握っていなくちゃ面白くないっていうような…」
「え? いえ別に、そんなことは…ないと思いますけど」
 相変わらずの「蚊の鳴くような」ジョーの返事を、松井警視の豪快な一喝が押し潰した。
「だったら覚悟決めて堂々と彼女に甘えちまえ! 男の沽券やメンツなんざ、色恋沙汰の上ではかえって邪魔にしかなんねぇよ。ちったぁこの石原大先生を見習ってみろってンだ。麗しくも聡明な年上の女(ひと)相手に十数年間甘えっぱなしの世話になりっぱなし、沽券やメンツどころか見栄も遠慮もかなぐり捨てて、そんでも結構幸せにやってらぁ。…てか、むしろそーゆー関係の方が男と女ってなぁうまくいくモンだぜ?」
 …とまぁ、ついには石原医師まで引き合いに出した松井警視、それも一体褒めてるんだかけなしてるんだか。とはいえその言葉には確かに一理ある…のは間違いなかったのだが。
「だ…だけど石原先生だって、まだ藤蔭先生に自分の気持ちを伝えていないじゃありませんか。だったら僕と同じ…それで先生が幸せだっていうんなら僕だって…っ!」
 あまりに一方的に説教され続けてとうとうキレたか、ついついジョーが言い返してしまったその途端。
「にゃ…にゃにおうっ!?」
「すっ…すみません!」
 松井警視の血相が変わったのと、自分の無礼に気づいた少年が真っ赤になって頭を下げたのはほぼ同時だった。そして―。
「まぁまぁ松っちゃん、落ち着いて。島村クンだって、こう一方的にぽんぽん言われてばっかりじゃ反論もしたくなるよ。…ごめんね。僕たちもちょっと言い過ぎたみたいだ」
 一瞬気まずくなりかけた雰囲気をすかさずなだめた石原医師が、ゆっくりとジョーの方へと向き直った。
「でもさ、島村クン。…僕と藤蔭先輩とが初めて出会ったときの状況がどんなだったか知ってる?」
「え…?」
 きょとんと顔を上げた茶色の瞳に、青年医師はにっこりと笑いかけて。
「その頃の先輩はもう医師免許も持ってたし、大学院の博士課程まで修了して大学の研究室助手として働いていた、立派な社会人だった。かたや僕は一応医学部には入学したものの果たして医者になれるのか、いやそれ以前に無事大学を卒業できるのかさえもわからない一年坊主…。多分あの頃の先輩にとっての僕は恋愛対象どころか一人前の後輩以下、何から何まで手取り足取り面倒見てやらなくちゃいけないガキにしか過ぎなかったと思うよ。だけどそれから十年の間に僕は大学を卒業し、医師免許を取り、先輩と同じ医者になり―ようやく、一人前の同業者として認めてもらえるようになった。もっともまだまだ『後輩』には違いないけどね」
 照れ臭そうに頭をかいたその頬が、ほんのりと赤く染まっている。
「ただのガキから一人前の後輩、同業者になるまで十年かかった。だからこの次、『男』として認めてもらえるまでに十年かかっても僕は諦めない。だって僕が好きになったのはそういう女(ひと)なんだもの。…ねぇ?」
 最後は笑いでごまかした石原医師、しかしそれを聞いているジョーの顔は至極真剣だった。
 そして同じく真剣な表情で幼なじみの「覚悟」に耳を傾けていた松井警視が。
「…ま、要はそういうこった。一見同じどっちつかずの優柔不断に思えても、ヒデの野郎はもうかれこれ十数年もの間、はるか天空に聳える冬山の頂上に咲き誇る氷の花目指して、凍てついた絶壁を一歩一歩必死によじ登ってるんだよ。なのにお前の方はときたら、春もうららな野っ原で愛しい花のすぐ隣に寝っ転がってるも同然―俺らがどうにもじれったくなって意見する気持ち、わかるだろ?」
 しんみりと言いつつ、ジョーのグラスに冷えたビールをこぽこぽと注ぎ足しながら。
「あのな、ボーヤ。最近流行りの、ああっと言う間に行くとこまで行っちまう恋愛ってなぁ、例えて言やぁこのビールみてぇなモンだ。真夏のクソ暑さにゆだってる最中なんかに冷えたビールをくいっと飲る、その喉ごしっつったらたまんねーやな。…しかしいくらそれが心地いいからってがばがばビールばっか飲んでたひにゃ、腹が膨れて他の食い物なんざ一口も食えなくなっちまう。反対にいつまでたっても手さえ握らず、じっくりゆっくり互いの関係を深めていくプラトニックラブてぇのは真冬の夜、あったかい暖炉の前でのんびり楽しむ極上のブランデーってトコかな。わざわざ口をつけなくても、グラスから立ち上る芳醇な香りだけで充分満たされ、夢見心地になれるような…。だがこっちはこっちであんまり度が過ぎりゃァ香りだけで酔っ払っちまって、肝心の酒は一口も飲めねぇまま夜が明けちまったりするもんさ。そんないいトコ悪いトコを全てわきまえた上でどっちを選ぶかはお前が決めること、俺らが口出しする筋合いじゃねぇ。ただしその選択がどうあれ、手に取れるのはあくまでお前自身のグラスだけだ。誰もいないテーブルにぽつんと置かれたグラスでも、手にする前にはきっちり所有宣言しとかなきゃならん。さもなきゃ他の誰かに先を越されて持ってかれちまっても、お前にゃ文句を言う権利さえねぇってこった。…それだけは、覚えておくんだな」



 それとちょうど同じ頃―張々湖飯店厨房ではようやく今日の仕事を終えた張々湖とグレートが、熱い烏龍茶を前にほっと一息ついているところだった。
「今頃、ジョーはどうしてるやろかネェ…。石原先生と松井警視はんにみっちり説教されて泣きべそかいてへんとええんやが」
「ま、松井警視はともかく石原先生が一緒なんだからまず大丈夫だろうよ。…にしても、前もって石原先生に根回ししておいたのは正解だったな、大人」
「人の恋路にあれこれ口出すのが野暮ちゅうことは重々わかっとるねんけどナ…いくら何でもあの二人はのんびりしすぎアル! このへんで誰かがハッパかけてやらんことにゃ埒が明かんヨ。かと言って、わてらがちゅうのもちょいと、ナァ…?」
「いかにも。どこの家でもそうなんだろうが『父親』が『息子』に恋の手管を教えるなぞ、中々気恥ずかしいものであるからな」
「そんでもやっぱ、恋する相手がおるちゅうことはええモンや。何がどうこう言うんやないけど、それだけで自分の拠って立つ足場ちゅうか…さもなきゃ帰るべき港が見つかるいうんかいナ、どことのうゆったり、どっしりした気ィになれるよって」
「おーおー、ご馳走様。そういや最近、『西王母』のママが前にも増していっそう艶っぽくなってきたなァ。結構うまく行ってるらしいじゃないか、大人」
「大きなお世話ヨ。そういうおまはんこそ、最近またちょくちょく里帰りしてるじゃないかネ。ブレンダはんかてさぞ色っぽうならはったんちゃうか?」
「そっちこそ余計なお世話だ! …と言いたいところだがこれが中々、な。正直、顔を合わせるたびにどきりとする」
「ほっほ、そりゃ何よりネ。まぁ、何だかんだ言ってわてらもまだまだ、立派な『現役』ちゅうコトやな」
 そこで今回の黒幕二人―ジョーが一人になるのをもっけの幸いと、誘い出して恋愛指南の一つもしてくれるよう石原医師と松井警視にこっそり頼み込んだ「父親」たち―は顔を見合わせ、楽しげな笑い声を立てたのであった。
 


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