スカール様の慟哭 〜腹黒わんこ寝返り編〜 12


 そして話は再び、ドルフィン号に戻ります。
 009の枕元であれこれぼやいていた仲間たちも、言いたい放題ヌカしてようやく気が済んだと見えて、すっかり静かになっておりました。それに元々みんな、この天然少年のことを本気で怒っていたわけではなく、ただただあんな目に遭って負傷した末っ子が心配でたまらなかった気持ちの裏返しなのですから、そうそういつまでも文句を並べ立てたりはいたしません。
 そんな中、004だけがいまだ不機嫌そうに唇をへの字に曲げておりました。
「…大体こいつ、本気で俺があのワン公をミサイルで撃つとでも思ってたのか? そんな危険な真似なぞ誰がするか! …ったく、何年仲間をやっているんだ」
「で、でもよオッサン。こいつ、犬が絡むと途端に正常な判断力失っちまうしさ。今度もきっとそうだったんだよ」
「002の言うとおりヨ。009の犬バカはもう、はっきし言って立派なビョーキある。病人相手に目くじら立てるのも大人げないやろ。だから004もどうか、落ち着いてナ…」
 もちろん、004とて皆と同じ気持ちなのは仲間たち全員がよく知っております。ですが吐き捨てるようなその口調に加え、深々と眉間に刻まれた縦皺までをも目撃してしまってはついつい009の弁護に回ってしまうのもまた人情というもので。
 しかし、ちっとやそっとの弁明で004の怒りが治まるわけもありません。
「そんなことは俺だってよく知ってる! だがな、フツーに考えりゃわかるだろ!? あのチビ犬にミサイルなんざ撃ちこむことがどんなに危険だかっ!」
「ウム…」
「そりゃぁ、なぁ…」
 いっそう険しさを増した声に応えたのは005と007。ですが、イマイチ緊迫感のない間延びした相槌に、004は心底うんざりしたように片手で目を覆います。
「…お前ら、本当にわかってるのか? …あのな、事情はどうあれあのワン公がBG基地内をとっとことっとこ放し飼いでうろついてたのは事実なんだ。だとすりゃまずはBGの罠―俺たちに差し向けられた刺客だと疑ってかかるのが当然だろう。ダイヤモンドの牙、鋼鉄の爪を埋め込まれたサイボーグ犬か、はたまた全く別の秘密兵器か。しかしアレを攻撃型サイボーグ犬と考えるのはどうにも苦しい。どんなに鋭い牙や爪を持っていたところで、あんなチビが確実に仕留められる獲物といえば夜の時間に入って無防備に眠り込んだ001くらいなモンだ。俺を含めた他の連中、年齢はどうあれ立派な大人の体格を持ったサイボーグ相手じゃ、せいぜい指の一本も食いちぎるくらいが関の山だろう」
 普段寡黙な004にしては珍しいくらいの饒舌も、頭に血が上りきっている証拠なのかもしれません。
「そりゃぁ、指一本食いちぎられるのがかすり傷とは俺も言わんよ。だが、致命傷でもあるまい? ギルモア博士ならものの数時間で治療してくれる、たかがその程度の傷を負わせるためにわざわざ犬一匹サイボーグにするのか? いくらBGとはいえ、そりゃあまりに酔狂ってモンだ」
 その場にいた仲間たちがいっせいにうなづきます。確かに、001以外のメンバーたちなら、たとえ指一本食いちぎられようがそれだけで命を落とすなどまずありえません。これは、メンバー中001に次いで生身に近い003さえ例外ではないでしょう。
「だとすれば、もう一方の可能性を考えるのが妥当じゃないか? 俺がもしBGの科学者で、あのチビ犬を兵器として改造しろって言われたら迷わず腹の中に爆弾の一つも仕掛けるさ。他の部位なんざいじくらんでも、そのまま標的の近くをうろちょろさせて、ウチの犬バカみたいな粗忽者が『わ〜、可愛い』なんて抱き上げたところでスイッチ入れりゃそのままドカン、そうなったらさすがの俺たちでさえ犬ごと木っ端微塵だぞ。そんな危ないシロモノにミサイル撃ち込むヤツなんざ、救いようのないバカかアホウのどっちかだ!」
 今度は相槌を打つ者は誰もおりませんでした。もしかしたらその場にいる全員、一歩間違えば自分も「ウチの犬バカみたいな粗忽者」になりかねないと思ったのかもしれません。
「あの…でもね、004。私が見た限りではあのワンちゃん、完全な生身よ。もちろん、体内に異物を埋め込まれているなんてこともない。…ですよね、ギルモア博士?」
 003の声に、検査器具の後片づけをしていたギルモア博士がゆっくりと振り向きました。
「ああ、003の言うとおりじゃよ。あの犬には改造手術はおろか、外科的手術の痕跡などは一切なかった。そればかりか栄養状態も満点、毛皮の手入れもよく行き届いていてのう。そんじょそこらのペットなどよりよっぽどいい暮らしをしていたと見える」
「でもそれ、もしかして今004が言ったような生体爆弾にするためだったかもしれんぞ。…どんなヤツでも『わ〜可愛い』って抱き上げずにはいられないようにするためにさ」
「それにもともとBGは実験体の健康には人一倍気ィ遣っていたアルしねぇ。健康状態に問題がある実験体でいくら実験しても正確なデータが得られないとか何とか言うて…。あの島脱出する前のわてらだってそや。戦闘訓練だの性能実験だのはえらいしんどかったアルケド、そのアフターケアだけはしっかりしてたアル。食いモンも、悪くなかったしナ」
「それでも、『実験動物』には違いなかったさ」
「あのチビ犬も、あのままあそこにいたらどんな可哀想な目に遭うてたかわからへんちゅうコトやな…。もしかして、それを察して逃げ出してきたんやろか。…わてらみたいに」
 007と006がしみじみと顔を見合わせてため息をつきます。もっともこんな話、当のスカール様がお聞きになったらかえって泡噴いてぶっ倒れるでしょうが、00ナンバーたちにはそんなBGの内部事情などわかるはずもございません。
「そーいや、あのワン公はどーしたよ? 009のヤツがとんでもねぇ力で抱きしめてたから引っぺがすのにえれー苦労したけど…その後、見てねぇな」
「心配せんでええ、002。あの犬なら今、処置室で008が診てやっておるよ。さすがのわしも、動物の扱いにかけては008にかなわんでな」
 ギルモア博士の言葉に一同がほっと安堵の息をついた途端、当の処置室のドアが開き、008がひょいと顔を出しました。
「ギルモア博士、こちらは全て終わりました。…009の方は?」
 一瞬不安げな表情を見せた008ですが、ギルモア博士から009も異常なしと告げられ、たちまち穏やかな微笑に戻ります。
「そうですか…よかった。ところで皆もちょっと見にこない? すごく可愛いよ、あの犬」
 言われて全員がぱっと立ち上がりました。何だかんだ言っても皆、あの犬のこともかなり気になっていたようです。
そしてぞろぞろと処置室に入ってみれば、ベッドの上にちんまりと盛り上がった毛玉、いえいえ横たわったチビ犬。部屋の奥の方に頭を向けているため、入り口付近からはその尻尾しか見えませんが、その毛並みは中々立派です。
「この子もあの衝撃で失神しちゃったらしくて、まだ目が覚めていないんだ。だから、静かにしてやってね」
 008の注意を受けたメンバーたち、足音さえも忍ばせてそっとベッドの周囲に群がります。
「わぁ、可愛い! この子、犬種はパピヨンね。見て、この大きなお耳」
「はは…確かにでかいな」
「おーお、それにしてもすっかりのびちまって」
「…仕方がないよ。何せ、あれだけの爆風で叩きつけられたんだもの。それにあの後の009、かなり派手に床を転がっただろう? 多分、床に激突した衝撃を少しでも逃がすよう、無意識のうちに受身を取ったんだろうけど…犬にしてみりゃ、洗濯機の中に放り込まれたも同じだったと思うし、目を回したって不思議はないよ。おまけにあんなにぎゅっと抱きしめられてちゃ…ねぇ? 正直、窒息死する前に助け出すことができてよかった」
 説明する008の表情はあくまでもにこやかですが、それを聞いている皆の額にはいつしか一筋の冷や汗が浮かんでおりました。どうやら、命がけでチビ犬を守ろうとした009の行動は、思いっきり裏目に出てしまったようです。
「で…でも、一応この子も大きな怪我はないのでしょ…って、え?」
 その場をとりなすように口を開いた003が、言葉の途中でその空色の瞳をぎょっとしたように見開きました。
「な、何この頭…。どうしたの!?」
 彼女を驚かせたのは犬の脳天にデカデカと張られた湿布薬でした。ご丁寧にその上にはガーゼがかぶせられ、絆創膏でしっかりと留めてあります。
「うん…残念ながらこの子もまるっきり無傷とはいかなくてさ。頭のてっぺんに大きなタンコブができてたんだよ。そうそう、耳の内側にも引っ掻いたような傷があったなぁ…。でも耳の方は完全なかすり傷。もしかしたら自分で引っ掻いちゃったのかもしれないし、とりあえず赤チン塗っといたからもう大丈夫。あ、もちろんこのタンコブも大したことないんだよ。骨や脳には全然異常ないし、脳波だって…」
 その場がしんと静まり返ってしまった原因を、犬の怪我によるものだと思ったらしい008が懸命に説明します。ですが…。
「ううん、違うの008。…じゃ、なくてねぇ…」
 やっとの思いで言葉を返した003の声は、今にも消え入りそうでした。
「あの…犬って人間と違って全身毛皮に覆われてるでしょ? だから…だから、ね…。こんな、湿布薬や絆創膏を貼りつけたりしたら、はがすときに…」
 ですがそれを聞いた008は破顔一笑、ますますにこやかな顔になってこう、のたもうたのでありました。
「ああ、そんなこと気にしてたの、003。安心してよ。手当てする前にちゃんと毛刈りしといたから。いくら治療のためだからといって、こんな小さな犬に痛い思いをさせるなんて、僕がするわけないじゃないか」
 おそらく008は心底このチビ犬のためを思って誠心誠意、懇切丁寧な治療をしたのでしょう。しかし…。しかしながら…。

 「毛刈り」?

(なぁオイ。毛刈りって…)
(ああ、多分…)
(それも脳天…だろ?)
(…て、ことは…)
(もしもタンコブが治って湿布薬はがしたそのあとは…)
(俺に聞くな)
(俺にも)
(我輩にもだ)
(わてにもあるヨ!)
(もちろん、私にもよっ)
 相変わらずにこにこと甲斐甲斐しくチビ犬の脈など取っている008を尻目に、こっそりと脳波通信を交わす2、3、4、5、6、7の六人。
 そう、このとき彼らの脳裏に浮かんでいたのは申し合わせたように同じ―
「カッパハゲ」
 この五文字だったのでございました…。

 そしてそれからすぐに処置室を辞去してドルフィン号のキャビンに逃げ込んだ六人、周囲に人の気配がないのを確かめてから、額を寄せ合いひそひそこそこそ、内緒話を交わしたりいたします。
「確かに、あのままBGにいたらどんな虐待を受けていたかわからんが…」
「しかし少なくとも今は違ってたはずで…」
「それが、俺たちのところに逃げ込んできた途端―」
「いきなり抱き上げられて」
「窒息死寸前まで抱きしめられて」
「飛び上がられて」
「爆風喰らって」
「床に叩きつけられて」
「目ェ回るほど転がられて」
「タンコブ作られて」
「挙句の果てが…」

 ―カッパハゲ。

 たかが五文字、されど五文字が六人の上にこの上ない重さでどおおぉぉ…ん…とのしかかってまいります。
「あああっ! 畜生ぉぉぉっ!! これじゃまるで、俺たちの方がよっぽど動物虐待してるみてぇじゃんかよぉっ!」
 ですが、最早002の絶叫に応える者は誰もおらず―。
「はあああぁぁぁ…」
 ただただ、六人分の大きなため息がキャビンの中に響くばかりだったのでございました。



 しかし、何と言っても一番衝撃を受けたのは当のチビ犬―パピ本人…いや本犬(ンなこたどっちでもいい!→自分)に他なりません。あれから程なく意識を取り戻し、つきっきりで看病してくれていた008、そしてそのあと再び様子を見に来てくれたメンバーたちに丁寧なお礼を言って頭を下げた、そこまではよかったのですが―。
 その後008から怪我の状態や手当てについての事細かな説明を受け、全てを知ったときのパピの心境はいかばかりでしたでしょう。作者など、その思いを想像するにつけても手が震え、こみ上げてくる大笑いを抑えることができません(笑いすぎて涙←鬼婆)。そう、かつてフランス宮廷、その名も高きベルサイユ宮殿にて貴婦人たちに寵愛され、現代でもそのプライドの高さと繊細さにかけては他犬種の追随を許さないとまで言われるパピヨンの栄光とプライドと神経は、この瞬間全部まとめて粉々に粉砕されてしまったのでした。
 とはいえ一応命の恩人(?)である00ナンバーたちに吠えかかったり喰いついたりするわけにもいかず、パピはただただふ抜けたように茫然と、されるがままになっているしかありませんでした。しかし00ナンバーたちの目にはその姿が「おとなしくて可愛い小さな犬」と映ったらしく、先を争うように世話を焼き始めたのです。すなわちやれゴハンだの水だのおやつだのブラッシングだの薬の張り替えだの―これでは養生どころかおちおち一休みするヒマもありません。さすがに見かねた008がとうとう仲間たち全員を部屋から追い出してくれたおかげで、ようやくパピはゆっくりとくつろぐことができたのでした。
 ですが―。
(ああ…よりにもよって、ましゃかこんなことになるとは…)
 いくら周囲が静かになったとはいえ、あんな衝撃を受けた上に犬種のプライドまでずたずたにされてしまったあとでは、そうそう心穏やかになれるはずもありません。
(あんな大バカよりはこっちの方がまだマシだと思ってたのに、どーちていきなりこんな目に遭わされなくちゃいけないのっ!? 大体あの009とかいうお兄ちゃん…はっきし言ってご主人様以上のオッチョコチョイじゃないでちかっ。あのとき、いきなり抱っこされてボクが暴れたのはあの人の肩越しに一つ目ロボットしゃんたちの姿が見えたからでち。なのに一体どこをどーすりゃあんな誤解ができるんだか。ちかもしょれがこのサイボーグしゃんたちの実質的リーダーだなんて…しょんなの、あんまりでち〜)
 腹立ちまぎれにベッドをがりがりひっかいていたパピのつぶらな瞳から、いつの間にか大粒の涙がぽろぽろとこぼれ出します。
(ふぇ〜ん、ご主人様ぁ〜。ボクが浅はかだったでち〜。こんならまだご主人様や横山のお兄ちゃんと一緒にいる方がいいよぉ…また九百万ドル作るためにどんなに苦労ちたって、ご主人様や横山のお兄ちゃん…ボグートやシロオスラシのおじちゃんたちならボクのおつむにカッパハゲ作ったりちないもんっ! 絶対に…ちないもんっ)
 「策士、策に溺れる」と申しますが、まさに今のパピこそ己れの悪知恵、策に溺れて立派なドザエモンになったいい見本ではないでしょうか。
(今頃ご主人様はどんなに心配ちてるか…。ふぇ〜ん、ごめんちゃいでち、ご主人様〜。ボク、帰りたいよぉ〜。お迎えに来てちょうだいよぉ〜)
 最早どんなに後悔してもあとの祭り…それはパピとて重々承知しております。ですがそれでもチビ犬は、いつまでもいつまでも涙声でスカール様を呼んでいたのでございました。



 もちろん、パピのそんな声がスカール様のお耳に届いたりなどするはずないのですが。
 先ほどボグート氏の見事なバックドロップを喰らって人事不省に陥っていたスカール様が脱出艇内で意識を取り戻されたのもちょうどそれと同じ頃だったのでございます。
「スカール様! 申し訳ございませんでしたっ!」
 脱出艇とはいえ一応幹部用、狭いながらもちゃんとスカール様専用のお部屋なんぞも設けられております。そしてそのベッドの下には、ボグート氏が深々と平伏していたのでありました。
「いくら緊急事態とはいえあのようなご無礼、何卒お許し下さいませっ」
 言いつつ、床に額をこすりつけるボグート氏。…ですがスカール様はもう、お酒も醒めてすっかり正気に戻っておられました。
「…いや、いい。ボグート。もとはと言えば全て俺の責任だ。自爆作戦が失敗したのも00ナンバーどもを仕留められなかったのも、パピが…」
 そこでぐっと言葉につまり、目頭を押さえたスカール様。
「あの可愛いパピ坊が…あんな…ことになったのも…」
「ス…カール様…」
 全身を震わせ、必死に涙をこらえるそのお姿に、さしものボグート氏もかける言葉が見つかりません。
「だから…もうよい。お前も横山もシロオスラシも、俺に謝ることは何一つないのだ。…ただ、ボグート…少しだけ…少しだけ俺を一人にしておいてくれんか。…頼む」
 そのお言葉への返事はありませんでした。静かに立ち上がったボグート氏が、深々と頭を下げて部屋を出て行きます。そしてお一人になられたスカール様がふと見れば、枕元にあのハチマキ―パピが締めていたスカール様印の必勝ハチマキがきちんとたたんで置いてあるではありませんか。
「…パ…ピ…坊」
 そのハチマキをお手に取った瞬間、スカール様の張りつめていたお心はぷつりと切れたのでございました。
「ふ…ふおおぉぉぉ〜っ!! パピ坊ぉぉぉぉぉっ!!」
 まさに血を吐く絶叫、滂沱の涙。ハチマキを抱きしめ、ベッドに突っ伏したスカール様ののどからは獣の咆哮にも似た深い哀しみのお声が迸り、その脳裏に浮かぶのは、短い間ながらも楽しかったパピとの日々、つぶらな黒いお目々、ふかふかのデカ耳、ふさふさ尻尾…そして、愛らしいその仕草ばかりでございます。
「おおお…パピ坊、俺が…父ちゃんが悪かった…。あの時お前から目を離しさえしなければ、いや、酒など飲んで前後不覚にさえ…ならなければああぁぁぁっ! うおぉ…パピ坊っ! 父ちゃんを許してくれ…そして…幻でもいい、夢でもいい、魂だけでもいいからもう一度…もう一度、父ちゃんのところに帰ってきてくれェェェーッ!」

「ご主人様〜っ! ボクが悪かったでち〜。おうちに帰りたいよぉぉぉ…」

 奇しくも同じ時刻に互いを呼び合っていた主人と飼い犬。ですがそのとき、脱出艇とドルフィン号との距離はすでに数千キロ以上も離れていたのです。
 そして二つの飛行艇は、スカール様とパピの慟哭の声を乗せたまま、それぞれの目的地に向かって超高速の飛行を続けるばかりでございました…。

 ちなみにそれからしばらくののち。業界内にその名を轟かせる悪の秘密結社BG、部外者には絶対にその秘密を漏らさない「超合金のカーテン」の奥深く、どうやらかなりの重要人物(?)が死去したらしいという噂が流れました。何でもBGは今後一年間その喪に服するということで、今年度の組織内行事―あの創立四十一周年パーティーも慰安旅行も一切合財―全てを自粛すると、当のBG総帥スカール様の御名で関係者各位への通達があったというのです。ついでにつけ加えればそれで浮いた費用は全額、時を前後して行われた本拠地移転費用、及びその際にどういうわけだか発生したインターネット取引に関する損害賠償費用に充てられたとか何とかかんとか…。
 その噂をパピが耳にしたかどうかは定かではありません。ですがもし、この事実を知ることができたなら、かのチビ犬の心もいくらかは安らいだのではないでしょうか…。





 そして。

 気がつけば、季節は秋になっておりました(…まさかこんなバカ話がここまで長く続くたぁ思わなかったよコンチクショウ←作者)。
 00ナンバーに連れられて再び日本に帰ってきたパピは、程なく藤蔭家に引き取られることになりました。思えばこのチビ犬も今まで随分と数奇な運命をたどってまいりましたが、ここに至ってようやく安住の地を見つけ、今度こそ心から信頼し、尊敬すべき「知性」と「行動力」、そして「絞め殺してやりたいくらいえー性格」を持つ「ママ」に巡り合うことができたのです。以来パピは「藤蔭さんちのワンちゃん」として家族やご近所の人たち皆に愛され、可愛がられ―やがて二十一年八か月という、犬としては驚異的なその天寿を全うする最後の日まで、幸福一杯に暮らしたのでした。
 ちなみにパピが、大好きなママと随分あとになってできた優しいパパとに看取られて、全ての生き物の還る場所―あの虹の橋へと旅立つまでの十数年間、00ナンバーサイボーグたちはこの腹黒わんこのいい遊び相手としてさんざんおもちゃにされまくり、好き放題にもてあそばれる羽目になるのですが、それはまだもう少し先の話になります…。

〈了〉
 


前ページへ   二次創作2に戻る   玉櫛笥に戻る