スカール様の慟哭 〜腹黒わんこ寝返り編〜 5


 さて、そんなこんなで数日後。
「スカール様! パピちゃん! やりました! 例のイーグルみんな買い手がつきましたよっ。売却価格は三機合計でおよそ九〇〇万ドルでありますっ♪」
「ご主人様、お兄ちゃん! こっちもOKでち! 例のパーティーと慰安旅行、その他モロモロの行事予算、当初予定のぴったり三分の二に抑えまちた!」
「うむ、横山もパピ坊もよくやった! これで、引越し費用一五〇〇万ドルはほぼ用意できたなっ」
「…ご主人様、お兄ちゃん、あんがとでち。こんなに早く目標額を達成できたのはみんな、お二人が手伝ってくれたおかげ…」
「礼など言うなパピ坊。もとはといえばお前があれほどまでに我々のことを心配し、必死になってくれたからではないか。手伝うのは人として当然というものだ」
「そうですよ。お礼を言うのはむしろこちらであります! ありがとうね、パピちゃん」
 あの夜、思いがけないパピの本心を知って大号泣、見ているだけで暑苦しくなるような愁嘆場を演じたスカール様と横山くん(←お約束)。…ま、例の爆発事故処理の疲れもあってか、結局その日はそのままパピもろとも泣き寝入りに総帥室でザコ寝したわけですが。
 一晩眠って目を覚ませば、そこは何しろ二度と戻れぬ幽冥境にまでしっかりイッちゃってる犬バカ上司と、それに影響されてただ今犬バカ道驀進中の部下、この迷コンビが大事な大事な飼い犬のけなげでいじらしい努力を黙って見過ごすはずがございません。
 かくて一致団結した主従と飼い犬、力を合わせてひたすら経費節減と倹約に努力した結果、見事に引越し費用一五〇〇万ドルをひねり出すことに成功したのでございました。
「…ですがスカール様。確かに引越し費用はこれで充分でありますが、まだ在庫処分費の五〇〇万ドルが残っているであります。…どう致しましょう?」
 満面の笑みを浮かべていた横山くんがふと正気に返り、不安げにスカール様のお顔を見つめます。しかしそう言われたスカール様も、腕組みしつつ難しいお顔でうなり声を上げるばかり。
「うーむ。まさかあの在庫品全部残して引越しするわけにもいかんしなぁ。…こーなったらいっそ、自爆装置使って基地ごと全部吹っ飛ばすか」
「しかしこの基地の自爆装置もまた、建設当初に設置したものであります。確かあのときは、まだウチの在庫品もあれほど膨れ上がっておりませんでしたし…当然、爆薬の量も当時の基地の規模に合わせて計算されているはずでありますからして、現在のこの基地を在庫品もろとも吹っ飛ばすには少々爆薬が足りないかと…」
「なぬ?」
「その不足分を新たに仕入れるとなれば、概算であと二〇万ドルは必要であります。まともに処分した場合の五〇〇万ドルに比べればはるかに安上がりとはいえ、これからさらに二〇万ドル調達するのはちょっと…」
 いつの間にやら難しい顔をつき合せつつ、「天下のBG」とは思えないセコイ話を始めた人間サマ二人。と、そこへいかにもあっけらかんとしたもう一つの声が響いたのでございました。
「ご主人様も横山のお兄ちゃんも、しょんなに難ちく考えなくてもいいでちよ。在庫の処分なんて、解体屋しゃん呼べばしょれですむことじゃありまちぇんか」
「解体屋だぁ?」
 途端、鳩が豆鉄砲食らったような表情になられたスカール様。
「おいパピ坊、そんな簡単に言うけどな、今のこのご時世、解体屋の手間賃だってバカにならんだろうに。ましてこの前のお前の言葉ではないが、ここは太平洋のド真ん中、絶海の孤島なのだぞ。…こんなトコまでえっちらおっちら来てくれる解体屋など、世界中どこ探してもいるわけないだろーが」
 しかし、パピはけろりとしてそのふさふさ尻尾を振っております。
「やだなぁ、ご主人様。別に、必ずしもプロじゃなくてもいいじゃないの。ご主人様たちの知り合いにいるじゃありまちぇんか。アマチュアとはいえ解体・破壊の手際にかけては玄人はだし、ちかも手間賃ゼロでどんなにコキ使っても全然気兼ねなんてすることない、おあつらえ向きの人たちが」
 スカール様と横山くんが怪訝な顔を見合わせます。そりゃま確かにこっちはあの在庫品さえ処分してもらえるなら別にプロでなくとも全く構わないのですが…。しかしながらたとえアマチュアのボランティアとはいえ、あれほどの品を処分させるのにタダ働きというのはあまりに気の毒でございます。なのに、手間賃ゼロでコキ使っても気兼ねする必要まるでなし―そんな都合のよい知り合いなんて、果たしてこの世にいたでしょうか。
 いつしかその頭上に巨大なクエスチョンマークの団体様を点滅させ始めた二人に、パピはにっこり微笑んでこう告げたのでございました。
「ほらぁ♪ あの裏切者の00ナンバーしゃんたちでちよ。あの人たちなら今までウチの基地をいくつも完璧にぶっ壊してくれたし、腕前は保証つきでしょ? あの在庫品だって、どれもこれもみんな、かつてあの人たちと戦って敗れたモノばっかりでちから、きっと、あっという間に丸ごときれいに処分ちてくれるに違いないでち」
 言い終えてこっくりと首をかしげたパピの姿は、それこそ愛らしいぬいぐるみそのものです。しかしながら―ま、今に始まったこっちゃございませんが―この「尻尾のある天使」の腹の中はこれ以上ないというほど真っ黒けなのでございました。
「しょれに人間、一度勝った相手には多かれ少なかれ油断するもの、いかに中古の不良在庫とはいえ、うまく使えばその油断を突いて彼らのうち一人か二人は倒せるかもしれないでしょ? そうでなくてもうまくこの基地の奥深くに誘い込んで、できるだけ派手なドンパチ仕掛けた隙にこっそり自爆装置を作動させてボクたちみんなで逃げちゃえば、残った裏切者しゃんたちはみんなまとめて木っ端微塵でち。万が一、全員無傷で逃げられたところで、今回ばかりはウチには何の損害もありまちぇん。…最悪の場合でも処分費二〇万ドル丸ごとタダ、運がよければ一石二鳥でも三鳥でも狙えるこの作戦…如何でしょうか?」
 言いつつ、つぶらな黒いお目々がじっとスカール様を見つめます。ああ、これこそまさに天使のツラの皮を被った悪魔そのもの、もしかしたらこのワン公、神ならぬ地獄の大魔王がこの世に遣わした最凶最悪の堕天使なのかもしれません。
 ですがこんなワン公こそ、世界に冠たる強大な悪の秘密結社、天下のBG総帥のペットとしてはまさにおあつらえ向きの人材、いえ犬材というもので。
「お…おおぉぉぉ…パピ坊…。お前は本当に、なんてお利口で可愛い、その上役に立つ犬なんだぁぁぁっ! あの裏切者どもを解体屋代わりにコキ使うとは素晴らしいアイディア、考えただけで積年の溜飲が下がるというものであるっ♪ ふっふっふっ…恨み重なる00ナンバーどもよっ! 一度くらい我がBGのために身を粉にして働いてもバチは当たらんぞぉっ。ぅわーっはっはっはっはっはっ!!」
 スカール様の専売特許、お約束の高笑いが出たところでめでたく三人…いえ、二人と一匹の意見は一致、早速具体的な作戦計画に入ります。
「では、早速準備にとりかかりましょう。えと…まずは基地内に緊急放送をかけて…」
「うむ。全員すぐさま荷物をまとめ、非常時脱出用として割り当てられている輸送機及び輸送潜水艦、空母や飛行基地その他に運び込んでおくようにとな。科学者どもの研究データはネットの暗号プロトコル使ってそのまま第二基地のメインコンピューターに転送してやればよかろう」
「一応、あっちにも必要機材は一通り揃ってるんでちよね、ご主人様?」
「うむ。何だかんだ言ってやはりこの基地は手狭だと、向こうに移って研究を続けている奴らもおるしな。いざとなりゃ身一つで行っても何とか暮らせる…って、さすがにそこまではしたくないが、それでも一日二日あればとりあえずの引越し準備は整うだろう」
「あ…。でもあのパチモンイーグルはどうしましょう。実はアレ、買い手に頼まれてちょっとばかり改造しているんであります」
「改造? あんなパチモン、今さらどこをどういじくるところがあるっちゅーんじゃい」
「はぁ…しかし先方が『ラジコン機みたいに自由に遠隔操縦できるようにしてほしい』と…」
「あんなデカイのラジコン操縦で飛ばすのか? …個人の好みをどうこう言うつもりはないが、変なこと頼んでくる奴もおるのだな」
「何しろ、競り落としたのがどれも『プラモ・ラジコンマニア』でしたので…」
「ふむ。まぁいい。そんじゃソレはとりあえず海底ドックに係留してある大型輸送潜水艇に移しておけ。あれなら確か補修設備も備えてあるはずだから、簡単な改造くらいなら船内でもできるだろう」
「準備が整ったら、早速裏切者しゃんたちをおびき出し…いえいえ、こちらに来てもらいましょう。どうしまちか、ご主人様。島の近海で何か適当に爆発でもさせまちか? しょれともあの恐竜型ロボットしゃんに、近所を通りかかったタンカーとか客船とか襲ってもらいましょうか」
「うんにゃ。そんな手間ヒマかけんでも、ちょっとした怪電波の一つも流してやれば、奴らはすぐさますっ飛んでくるだろうて。それにあまり派手なことやって、どこぞの物好きな軍隊とか調査隊とか野次馬とか、余計な連中まで引き寄せても面倒だからな」
「かしこまりました! では、直ちにそのように手配するであります!」
 その場でぱっと立ち上がり、直立不動で敬礼する間ももどかしく執務机に駆け寄る横山くん。思うに彼は、机上の内線電話を使って全基地内緊急放送をするつもりに違いなかったのですが。
 横山くんが執務机にたどり着くまさにその寸前、またもや大音量の緊急警報が鳴り響いたのでございます。
「ひ…ひぇっ! 今度は何でありますかぁぁぁっ!」
 慌てたあまりに足を滑らせ、盛大にすっ転んでしまった横山くん。その身体を飛び越えて、今回はスカール様おん自ら内線電話に突進なさいます。そして、受話器を取るや開口一番、
「今度は何が爆発したぁぁぁっ! 自動食器洗い機か、それとも換気扇か、洗濯機か電子レンジか風呂釜かぁぁぁぁっ!!」
 BG総帥というよりどっかのオバチャンのごとき所帯じみた絶叫。作者としてはこの台詞、是非是非「あの」若○ヴォイスで拝聴したいものでございますが…って、ンなこと言ってるバヤイじゃございません。何故ならば…。
(スカール様! 一大事であります! たった今、レーダーが00ナンバーどもの戦闘艇を捕捉しましたっ。現在の距離及び速度から計算して、当基地への到達時間はあとおよそ一時間っ!)
 間髪いれずに受話器の向こうから返ってきたのは、驚きと焦りにすっかり声が裏返ったレーダー係の絶叫だったからでございます。
「何だとおおおぉぉっ!」
 噂をすれば何とやらとは申しますが、あまりに都合よすぎる00ナンバーどもの出現。しかもあと一時間でこっちにやってきてしまうとなれば、ご都合主義をはるかに通り越した悪魔のバッドタイミングと言った方が正しいのかもしれません。
「よ…よし、では直ちに戦闘準備を…あ、でもどうせならやっぱこれに乗じて引越ししといた方があとあと楽かな〜。だが戦闘準備…引越し準備…戦闘…引越し…」
 いまだ受話器を握りしめつつ、パニックに陥ってぶつぶつつぶやき始めたスカール様の背中に飛んだのはまたしてもパピの声。
「ご主人様、ちっかりちてちょうだいっ! あと一時間ちかないのに、のんびり錯乱ちててどうちるの! えと…とにかく、まず基地内の人員を三つに分けて、それぞれ交代で手荷物の取りまとめ、研究データの転送、例の在庫品の出撃準備に当たらせましょう。多分、どれもこれもギリギリの綱渡りになると思いまちけど、例の裏切者しゃんたちだって目標をはっきりつかんでやってきたわけじゃないはずでち。第一、ここは内部はともかく外装はその辺の岩山そっくりにカモフラージュちてるし、たとえこの海域…いえ、この島に着いたところでしばらくはあちこちを偵察、調査しなくちゃ、とてもじゃないけどこの基地の正確な場所までは特定できまちぇん。そのための所要時間を約三十分と見れば、在庫品第一陣の出撃も何とか可能になるでしょう。そちたらまず、基地とは反対側、できるだけ遠い地点で迎え撃って敵を撹乱させ、さらなる時間稼ぎを狙うでち。でもって、しょの間に無事こっちの引越し準備が完了すれば、あとはただ徹底的に相手を叩き潰すのみ! あとはもう一か八かの勝負でち、ご主人様!」
 それは、百戦錬磨の勇者たるスカール様でさえ文句のつけようがない、見事な作戦でございました。ああ、本当にこのチビ犬の小さな小さな脳ミソには、一体どれだけの悪知恵が詰まっているというのでしょう…。
 ですがこのときのスカール様と横山くんにとっては、こんな悪知恵と腹黒さ全開の作戦もまた天からの啓示、神の声でございました。
「おお、そうだなっ! 全てはお前の言うとおりだパピ坊っ。あー、あー、ただ今マイクのテスト中…本日天気晴朗なれど波高し、波高し…」
「もしもしっ! こちら総帥執務室でありますっ。ただ今より、全科学者チーム、研究スタッフに緊急連絡、緊急連絡…」
 たちまちのうちに内線電話を基地内一斉放送モードに切り替えたスカール様、そして研究棟直通、非常用ホットラインで指示を伝える横山くん。こうなればもう、パピの出番はありません。そこでこのチビ犬、自分もまたすぐさま手荷物整理…例のエル○ス特注ドッグベッドにお気に入りのおもちゃやら犬用ガムやら自分の食器やらを大急ぎで運び込み始めたのですが。
(しょれにちても、どうちてこんなにタイミングよくあの裏切者しゃんたちがやってきたんでちょうねぇ…。やっぱ、あの生ゴミ処理機爆発の後始末に問題でもあったのかなぁ…)
 今も必死な面持ちで基地内放送を続けているスカール様と横山くんにちらりと目をやりつつ、ついつい漏らしてしまった小さなため息など、当の人間サマ二人が気づくわけございません。
(ま、今さらしょんなこと考えてもどうちようもないか…)
 そしてパピはまた、部屋の片隅に転がっていた宝物―スカール様のお下がり、穴の開いた靴下をくわえ、大事に大事にドッグベッドのなかにしまいこんだのでございました。



 しかし、パピの疑問ももっともでございます。一体、00ナンバーの連中はどうやってこの基地をつきとめたというのでしょう。その謎を解くため、ここは一つ彼らの戦闘艇―ドルフィン号の中を覗いてみたいと存じます。

 BG本拠地に向かって飛行を続けるドルフィン号の中では、00ナンバー全員が難しい顔で額を寄せ合っておりました。彼らが囲んでいるのは銀色の検査用トレイ、そしてその上に乗っているのはシャーレに入ったいくつかのサンプルでございます。実はこのサンプルは全て、水中、特に海の中においては向かうところ敵なしの008と、イルカあるいはタコ、イカ、アワビ、ウツボ、チョウチンアンコウ等々、持てる変身能力の全てを駆使した007が、海中より集めてきた不審物だったのでございました。
「ふ…む。確かにこれは自然物としては明らかにおかしいのう。このニンジンのシッポといい、ナスのヘタといい…。どう考えても、こんな太平洋のど真ん中にぷかぷか浮かんでいていいものじゃないぞい」
「近隣諸国から流れ着いてきた生ゴミ…という線もありますが、これらはどれも妙に新しすぎます。手元の資料によればここから一番近いのはC国ですが、あの国近辺の海流はどれもこれも北に向かって流れている。C国からはるか南のこんな場所に浮かんでいるのがまずおかしいし、仮にあそこからここまで流れてきたとしたら、距離から鑑みるにおそらく原形をとどめないほどに腐敗が進んでいるはずです。もちろん、他の国々からの漂流物だとしても同様。この地点に流れ着く以前、当の昔に魚のエサになってしまっているはずだ」
 うなるようにつぶやいたギルモア博士と、己れの専門分野とて、饒舌な補足説明をつけ加えた008。他のメンバーたちも、二人の言葉に重々しくうなづきます。
「C国その他の国の生ゴミとしておかしいところはもう一つあるアルネ。みんなちょっと、これ見るあるヨロシ」
 一歩前に進み出た006が、サンプルのうち一つ―十センチ四方くらいのコンブの切れ端―をつまみ上げ、皆に示します。
「コンブちゅうもんはもともと寒流系の海草で、その生息地はほとんど北半球、それもある程度の高緯度地域に集中してるのヨ。そやさかい、とてもじゃないがこんなあったかい南の海に浮かんでるなんてありえないネ。その上これ…海水にかなりふやけちまてるからわかりにくいかもしれへんけど、明らかに加熱処理されてるのコト。しかもこのきれいな切り口は、どう考えても包丁かキッチンバサミで切ったものアル。となれば間違いあらへん、これはまぎれもないダシ取った後のダシガラコンブヨ。わて、料理人としての首かけてもいいあるネ!」
「ふ…む…!」
 その言葉を耳にした007の右眉がぴくりと上がります。
「となるとますますおかしいな。コンブでダシをとるのは日本特有の食文化と言っても過言ではない。C国その他、この海域近辺の国々の料理に使われているとはまず思えん」
 さすが張々湖飯店の共同経営者、舞台俳優とのかけもち勤務とはいえ、彼の料理の知識も中々のようです。
 そこで、今まで黙って皆の話を聞いていた009が、ふとサンプルの脇に置いてあった新聞記事の切抜きを取り上げました。
「とするとやはり、この記事にあるシャケの皮も怪しいということになりますね、博士」
 差し出された切抜きに、大きくうなづいたギルモア博士。そこには、「赤道直下のミステリー・赤道直下の太平洋に焼きジャケの皮?」という見出しが躍っておりました。そう、彼らがわざわざここまでやってきたのは、全てこの切抜きのせいだったのです。
 三日前、ギルモア邸に届いた新聞に載っていた小さな記事。それは、太平洋にて操業していたはえ縄漁船の釣り針に、焼きジャケの皮が引っかかっていたというものでした。しかもそれはかなり新しく、どう見ても一日以上海に浸かっていたとは思えません。大体、シャケ―鮭というのは先のコンブ同様寒流を好む魚ですし、それでなくてもこんな大海原の真ん中に、こんがりおいしそうに焼けたシャケなんて…。当然、漁船の乗組員たちは最初、自分たちが食べたシャケの皮が何らかの理由で海中に落ちたのかと考えたのですが、実はその漁船では過去一週間以内に焼きジャケが食卓に上ったことはなく…。
(この赤道直下のささやかなミステリーを、皆様はどのようにお考えになるだろうか)
 最後までこの記事を読んだギルモア邸の面々が異様な胸騒ぎを覚えたのは言うまでもありません。そこで急遽仲間たちに召集をかけ、全員が日本に集結したと同時にドルフィン号を発進させたというわけなのでした。ちなみにそのシャケの皮、そして先ほどのダシガラコンブ、ニンジンのシッポやナスのヘタは、もちろんあのBG基地の生ゴミ処理機爆発の際飛び散った生ゴミでございます。いかに全基地総出の必死のドブさらい…いえ、海さらいといえども、広大な大海原に散乱したゴミ全部を回収することは無理だったのでしょう。ああ、いかに世界標準を飛び越えた技術、科学力を誇るBGとても所詮は神ならぬ人の子、雄大かつ神秘的な大自然の前には声もなくひれ伏すしかないのかもしれません…(ちょっと待てっ! コレ、そこまで大袈裟に言う話か→自分)。
「常識的に考えれば、この海域―ドルフィン号の現在位置を中心とした半径およそ一千キロ以内には、陸地はおろか小島一つもないはずなんじゃがの」
「でも、それはあくまで地図上の話だ」
「少なくとも、これらの生ゴミを出した何者かがこの海域に潜んでいることは確かだし」
「やっぱここは一つ、徹底的に調査しねぇとな」
「よし、それでは作戦開始!」
 009の宣言と同時に、00ナンバーたちはさっと各自の持ち場に散らばり、いよいよ本格的な探索を開始したのでございました。

 突然のドルフィン号出現に大混乱、引越し準備と戦闘準備におおわらわのBG団。
 一方、シャケの皮に誘われ、生ゴミ拾いに奔走した結果、得体の知れぬ何者かの存在を確信した00ナンバーたち。

 両者の火花を散らす対決の行方は、果たしてどうなるのでございましょうか…。
 


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