浜辺にて 1


 その日、久しぶりにギルモア邸を訪れた藤蔭医師にパピがくっついて行ったのは、飼い主ばかりか当の飼い犬にとっても全く予定外だった。
 というのも、今回の訪問が他ならぬギルモア博士の緊急招集によるものだったからである。何でも、ここ半年ほど世界各地で奇妙な熱病が流行しているのだとか。もっとも決して悪性のものではなく、今のところ一人の死者も出ていないそうなのだが、回復期に入った患者のほとんどが原因不明の精神錯乱を起こすのが気になる、と博士は言う。
 その症状とはいわゆる「悪霊憑き」そのもの、突然見ず知らずの他人の名を名乗ったかと思えば、わけのわからない戯言を喚き散らして暴れ出す。そのときの患者の力は物凄く、わずか十二歳の少女に大の男六人が撥ね飛ばされた例もあるそうな。
(とはいえそれも大抵は一週間ほどで治まるんじゃが、その間、どのような治療も投薬も全く効果がないというのが…いやもちろん、高熱による一時的な精神錯乱、あるいは集団ヒステリーの可能性もあるし、わしの思い過ごしかもしれんがの、どうにも気になってたまらん。なので一度、君や石原君、それにコズミ君にも意見を聞かせて欲しいんじゃ。次の日曜日あたり…ちょっと顔を見せてもらうわけにはいかんかね?)
 電話を受けた藤蔭医師は一も二もなく承知した。正直、彼女の第一印象としては「ギルモア博士の思い過ごし説」に大いに賛成だったのだが―。大体、心霊現象だの祟りだのと騒がれる事件のうち実際に霊が関わっているものなど全体の一%あるかないかだし、治療や投薬に効果がなくても自然治癒で全快するというのなら、裏で糸を引く何者かの存在も考えにくい。けれど、それならそれで皆とじっくり話し合い、はっきり「思い過ごし」だと証明しておいた方がこちらも安心できるというものではないか。それに、久しぶりにギルモア家の人々やコズミ博士、そして石原医師にも会いたかった。
 しかしそのような用件では、残念ながらパピを連れて行くわけにもいくまい。仕方なしに事情を話し、「ごめんね」と頭を下げれば、当のチビ犬は意外にけろりとした顔で。
「しょんな、心配ちなくても大丈夫でちよ、ママ。確かにしょれじゃ、ママやギルモア邸の皆しゃんも、ボクと遊んでくれる時間なんてないでちもんね。次の日曜日はボク、おばあちゃまとおうちでお留守番してますでち」
 …とまぁ、別に駄々をこねるでもなくあっさり承知してくれて一安心。
 ところが、よりにもよってその前日の土曜の夕方、思いがけない「事件」が起きた。
 藤蔭医師にとっては父方の叔母兼中学高校時代の恩師でもある安部初音が足を挫いたという連絡が入り、母雪江がその看病と叔父の世話のため、泊りがけで叔母宅へ出かけてしまったのである。初音の夫―忠志叔父は、あの年代の男性にしては珍しく家事の腕も中々、特に掃除と洗濯は初音叔母より上手なくらいなのだが、如何せん料理だけはからっきしダメで―コンビニやスーパーで弁当を買うにしても自分の好きなもの以外は絶対に選ばないという御仁、三日続けて朝昼晩、叔父の好物のシャケ弁とキンピラゴボウばかり食べさせられた叔母の悲鳴にも似た電話を受けた母が慌ててすっ飛んでいった気持ちは至極よくわかる。
(だけどどうしよう…明日は私もいつになったら帰れるかわからないのに)
 ため息をつきつつ視線を落とせば、足元にちんまり座ったチビ犬のつぶらな瞳と目が合った。

 かくて―。

「突然連れて来てしまって本当に申し訳ありません。ですがさすがに丸一日放りっぱなしにするわけにもいかなくて…」
 ギルモア邸の玄関に入るやいなや、パピを抱いたまま深々と頭を下げた藤蔭医師。だが、迎えに出てきたイワンやジョー、そしてフランソワーズたちは大喜び、たちまちパピを取り囲んでわいのわいのと騒ぎ出す。藤蔭医師同様ギルモア邸に呼ばれたコズミ博士や石原医師も、この(外見だけは)可愛らしい「珍客」に目を細めていた。
 しかしやはり、今日は用件が用件だけにいつまでもそうしているわけにもいかない。
「ネェぱぴチャン…本当ニ…イイノ?」
「僕たちが研究室で『会議』を始めちゃったら、最低二時間は出てこられないよ?」
「場合によってはもっと長引く可能性だってあるわ。なのにその間、ずっと一人ぽっちなんて…」
「何なら一緒に研究室においで。お前ほどの犬なら、今回の件にも何かしら思うところがあるじゃろう」
 等々、心配そうに声をかけてくる人間たちに、チビ犬ははっきりと首を横に振った。
「お気遣いどうもありがとうございますでち。でもボク、やっぱりこっちで待ってまちよ。経済学ならともかく、病理学や医学のお話じゃ、ボクは全然お役に立てまちぇんもの。しょのかわり…ねぇ、お庭で遊びながら待ってちゃいけまちぇんでちか?」
 言われて、人間たちは揃って顔を見合わせる。庭で遊ぶこと自体は別に構わないが、自分たち「保護者」全員が目を離した隙に万が一何かあったら…それでなくとも今年の記録的猛暑の名残はいまだ衰えず、そろそろ彼岸の入りだというのに連日三〇℃を超す暑さが続いている今日この頃である。
 しかし所詮、「泣く子と地頭」、そして可愛らしく懸命におねだりするチビ犬に勝てる者などこの家には存在しないのだった。ならばせめてもの用心にと、チビ犬の首に迷子札付きの首輪をきっちりと締め、庭の木陰にドッグフードと水を入れた器を用意してやることで妥協した人間たちが、それでもなお後ろ髪を引かれる風情で何度も振り返りつつ研究室へと消えた瞬間。
「うっわぁぁぁぁい! やったぁぁぁ!」
 弾むような歓声とともに、チビ犬は勇んで庭へと飛び出した。何を隠そう、本日のパピのお目当てはまさにこれだったのである。
 ごく短い期間とはいえギルモア邸に居候していたからには、この庭はまごうかたなき自分の縄張り。たまには念入りにパトロールしておかないことには、どんな礼儀知らずに荒らされるかわかったものではない。
 さらに加えてもう一つ。
(うふふ…ここは異常なちでちね。よちよち♪)
 真っ先に庭外れのとあるポイントに駆けつけてにんまりとほくそえんだチビ犬、それからおよそ三十分ほどをかけてじっくりゆっくり庭中を点検した結果に大いに満足し、先程木陰に用意してもらった水でぺちょぺちょとのどを潤したその後で。
(しゃぁ、あとはここで思う存分お昼寝するだけでち〜vv)
 再び例のポイントに戻り、しゃかしゃかしゃかしゃか…嬉々としてその場の土を掘り返し始めたのであった。
 実はこの場所、庭外れだけあって手入れの際にもついつい見落とされがちで、自由気ままに伸びた木の枝が幾重にも重なり合った濃い木陰になっているのである。しかもすぐ脇はアイアン・レースの垣根とその向こうに広がる雄大な海原とくれば年間を通して吹き寄せる潮風が心地よいことこの上なく、どんなに暑い日であろうとも熱中症になど決してなるわけがない、パピのお気に入りかつ秘密の「お昼寝ポイント」だったのであった。
 無論、現在パピが暮らしている藤蔭家の庭もギルモア邸のそれに負けない広さだし、「お気に入りのお昼寝ポイント」とて数え切れないくらいあるのだが、惜しいことにそこは都内の一等地、この気持ちいい潮風ばかりはどう頑張っても望めるべくもない。
 だから今日、図らずもこのギルモア邸でしばし自分一人(いや一匹…?←だから、いーからっ)の時間を持てると知ったパピは、是非この場所で好き放題昼寝を楽しもうと心密かに企んでいたのである。
 で、ものの五分とかからず無事「お昼寝」に最適な穴を掘り上げたパピ、早速その中で丸まり、「お休みなしゃ〜いv」と静かにそのまぶたを閉じる。ひんやりとした土の感触と毛皮をなでる優しい潮風はまさにこの場所ならでは、頭上にそよぐ木々の葉ずれの子守唄にそのデカ耳を傾ければ、たちまちとろとろとまどろんでしまう…はずだったのだが。

(もしもし…。もしもし)
 聞き慣れぬ呼び声にそのつぶらな瞳がぱっと見開かれる。しかも犬語だ。…誰だろう?
 渋々ながらも体を起こして周囲を見回せば、瀟洒なアイアン・レースの垣根越しに一匹の雄の中型犬がこちらを見つめていた。
「お昼寝の邪魔をしてしまいまして申し訳ありません。ですがこのおうちで犬族の仲間を見るのは初めてだったので、ついつい声をかけてしまいました。お許し下さい」
 ぺこりと頭を下げた相手はおそらく雑種、中型犬だけあって縦横共にパピの倍はあろう大きさだが、かなり若そうだ。せいぜい二歳…いや一歳? どちらにせよ、仔犬から成犬になったばかりの若犬であることは間違いあるまい。それにしてはまぁ、随分としっかりした物言いをすることよ。寝入り端を起こされたのには多少むっとしたが、その礼儀正しい態度には大いに好感が持てる。
「もしかして、こちらの犬(かた)ですか?」
 問いかけられ、苦笑しながらパピは首を横に振る。
「いや、違います。実は以前、半年ほどこちらのお世話になっていたのですが、今は新しい飼い主と別のところに住んでおりましてね。今日はたまたま遊びに来ただけなんですよ」
 いつもとはがらりと違うその口調を人間たちが聞いたらさぞ驚くだろうが、内緒の話、こちらの方こそがパピ本来の言葉遣いなのである。ただ、人間語を話す場合、犬の身ではどう頑張っても正確に発音できない言葉が多々あったりするのであんな舌っ足らずな喋り方になってしまうだけなのだ。体の小ささも手伝って人間たちにはいつまでたっても子供扱いされがちなパピだが、どっこい今年でもう七歳、犬社会においては立派な「中年」であるからして、まさか同じ犬仲間、それも自分よりはるかに年下の若犬相手にあんな喋り方をするなど、それこそ年長者としての沽券にかかわる。…なんてことはまぁ、とりあえずどーでもいーが。
「ところで貴犬(あなた)は…失礼ですが一匹で?」
 垣根の向こうには他に人っ子一人、犬の子一匹いない。パピ同様立派な首輪をつけているからには―ただその色が黒なのか茶色なのかははっきり識別できないけれど―どこかの家の飼い犬には間違いないはず、ならば何故こんなところをたった一匹でうろついているのだろう。今どき放し飼いにされている犬など、滅多にいないと思うのだが…。
 すると今度は若犬が、ゆっくり首を横に振った。
「いえいえ、みんななら下の浜辺で遊んでいますよ。僕はそれにもちょっと飽きちゃったんで、こっそり抜け出してきただけです。ここは崖の上だから見晴らしもいいし、このお庭にいつも綺麗な花が咲いているのも楽しみだし…正直な話、これまでにもちょくちょく探検に来ておりまして」
「ああ、そうだったんですか。しかしそれじゃ、あんまりお喋りもできませんね。貴犬がいないことに気づいたら、浜辺の皆さん―飼い主さんやお友達が心配なさるんじゃありませんか」
「ええ、だから本当はもうそろそろ帰らなくちゃいけないんですが…」
 若犬の目が、名残惜しそうにパピを見た。
「できれば貴犬とももう少しお話ししたいなぁ。…あの、もしよろしかったらちょっとの間だけ、浜辺に下りていらっしゃいませんか。みんなにも紹介しますよ」
「え…私もですか?」
 言われてパピは考え込んだ。研究室の会議が終わるまでには最低でもあと一時間と少し、時間は充分にある。浜辺で一遊びしてから昼寝の続きをするもよし、万が一ぎりぎりの時刻に戻ってきたところで、用件だけ済ませてすぐ退散するなどあの赤子や少年少女が許してくれるわけもなし…。そもそもその用件―会議自体が予定どおり二時間で終わるとは限らないのだ。だったらこの若犬につき合ったとしても、その後ゆっくり昼寝を楽しめる可能性は大いにある。…が。
「お誘いどうもありがとうございます。ですがあいにく私は『塀の中』ならぬ『垣根の中』…外に出るには一度家に入って玄関を通らなくてはなりません。しかもそっちからですとこの裏庭に回る道がなくて…」
 いかにも残念そうなパピに、若犬はにっこり微笑んだ。
「そんなことなら気になさらなくても大丈夫ですよ。このお家の垣根には確か…あ、あったあった!」
「ああ…! 勝手口ですね!」
 今まで話していた場所からつと脇にそれ、敷地の角あたりをくんくん嗅ぎまわっていた若犬の弾んだ声に駆け寄ってみれば、何とアイアン・レースの垣根の一部分が小さな扉になっているではないか! 掛け金式の鍵こそ閉まってはいても、扉の下部と地面との間には、開閉に支障がないようほんのわずかな隙間が空いている。その上その地面というのもまごうかたなき―土!
 …と、いうことは。
「そうか! だったらこの下をちょっとばかり掘って…」
「そうそう♪ その穴をくぐれば簡単に外に出られますよ」
「よし、だったらもう一仕事」
「お手伝い致しましょう」
 しゃかしゃかざかざか、たちまち力を合わせて穴を掘り出した二匹。チームワークというのは大したもので、今度は五分どころか一分もかからず先程の昼寝穴よりさらに大きな穴が無事掘りあがった。そしてするりとそこを潜り抜けたパピ、無事脱出成功。
「はぁ…同じ戸外とはいえ、やはり庭の外の方がいっそう気持ちいいですね」
「そりゃぁ、何と言っても開放感が違いますよ。…さ、こちらへどうぞ。浜辺に下りる道は岬の最先端にあるんです」
 ぱっと若犬が走り出せば、パピもすかさず後を追う。かなり岬の先端寄りに建っているギルモア邸ではあるが、地盤の強度や安全性を考えるとやはり最先端というわけにはいかず(…てか、そんなトコに家おっ建てたら鉄板で建築法違反←根拠なし)、結果、若犬の言う「最先端」というのはそこからさらに二、三十メートル先なのであった。もっとも犬の足で猛ダッシュをかければその程度の距離などわずか数秒、あっと言う間に二匹は目当ての場所にたどり着いたのだが…。
「あれ…?」
 突然足を止めたパピの、つぶらな瞳がますます丸くなった。それもそのはず、そこにはこんもり丸く盛られた土饅頭の上に立つ木製の十字架と、その前に供えられた花々が―。となればどこからどう見ても誰かの墓以外の何物でもないが、ギルモア邸に居候していた間、こんなところに墓があるなんて話は聞いたこともない。
「どうしましたか?」
 これまた不審げに寄ってきた若犬、しかしパピが見つめているものに気づくとすぐさま小さくうなづいて。
「ああ…これ、僕が初めて来たときからあるんです。一体誰のお墓なのかはわかりませんが、きっとここの主は海が大好きだったんでしょうねぇ。ここから見る海と浜辺の景色は最高ですから…ほら」
「うわ…」
 若犬の言うとおり、そこからの眺めはまさに絶景だった。初秋の陽射しにきらきらと輝く海はギルモア邸の窓や庭から望むよりはるかに広く大きく、まるで大空に溶け込んでしまうかのよう、崖下の砂浜からは若犬の仲間や飼い主らしい歓声、そして匂いがかすかに漂ってくる。ただ、その姿だけはいくら目を凝らしても二重、三重にぼやけたゴマ粒にしか見えない。聴覚、そして嗅覚に関しては人間どころかサイボーグをも凌ぐのが自慢の犬族であるが、残念ながら視覚だけは今一つ、かなりの近眼に加えて色彩の区別もごく大雑把にしかできないのだ。実は先程、若犬の首輪の色が黒だか茶色だかわからなかったのもそのせいなのである(しかし犬族はそんな細かいことはいちいち気にしない)。
「僕も海が好きだから、死んだ後はこんなふうに海のそばにお墓を立ててもらいたいものですが…いや、縁起の悪い話はよしましょう。それより早く浜辺へ下りていきませんか?」
「そうですね、それじゃ…」
 最後に十字架の前に並んで黙祷し、墓の主への敬意を表した二匹はそのまま傍らの草むらの中にごそごそと分け入っていく。
 浜辺へ下りる道は、岬の側面の崖に刻まれたそのものずばりのけもの道であった。わずか三、四十センチの幅しかないので人間にはとても通れそうにないが、じぐざぐとした九十九折になっているおかげで傾斜はかなり緩く、パピにとってもそうそう難儀な道ではない。
 やがて下り立ったのは、浜辺から大きく陸側に切れ込んだ崖の陰。岩の縁からひょいと顔だけ出して様子をうかがえば、少し離れたところで遊んでいる犬や人間たちの姿もはっきりと見て取れる。十人前後の人間より幾分犬の数の方が多いような気がするのは、多頭飼いをしている飼い主がいるせいだろうか。そのちょっと手前には二本の大きなビーチパラソルがくっつくように立っていて、かなり大きな日陰を作っていた。そこにもまた、わずかに誰かの気配がする。
「あれが貴犬のお仲間たちなんですね。楽しそうだなぁ。…でも、いきなり私のようなよそ者が入っていって大丈夫でしょうか」
「あはは…ご心配には及びませんよ。みんな、懐っこくて気のいい連中ばかりですから。ですが一応ここは筋を通して、まず『長老』に一言ご挨拶するとしましょう」
 言いつつ若犬はすたすたと白砂の上を歩き出す。慌てて後を追ったパピの足の裏、肉球に当たる砂が熱い。さすが海辺だけあって陽射しもきついようだ。
「こちらですよ」
 若犬が案内してくれたのはあのビーチパラソルの下だった。かすかに鼻腔をくすぐるのは、紛れもない複数の―犬の匂い。けれどまぶしい陽射しに半ば眩みかけた目では、やや薄暗いその日陰の中の様子などほとんど識別不可能だった。
(ふむ…しかしこの匂いから察するに、中にいるのは…)
 若犬の後ろで神妙に控えつつあれこれ想像をめぐらせるパピをよそに、若犬が静かに奥に向かって声をかけた。
「失礼致します、ご老体。…お休み中でいらっしゃいますか?」
 途端。
「おお…君か。入りなさい」
 返ってきたのは年老いた、しかしまだまだしっかりと威厳のある声。軽く一礼した若犬に促されるまま一歩日陰に入った刹那、肉球を焼く砂の熱さをほとんど感じなくなった。見れば足元には一面にベージュ色のシート―それも、おそらく断熱素材の―が敷かれてある。なるほど、これならかなりの老犬であっても充分快適に過ごせるに違いない…とパピがこっそり、そして大いに納得したところへ。
「しかし君はまた、どこをほっつき歩いていたのかね? 突然にいなくなりおって、娘どもが大騒ぎで探していたぞい」
 苦笑交じりのあの声が再び響いたと同時に、見上げるほどの巨大な影がむっくりと起き上がった。
 


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